安房直子さんの世界を語り継ぐ 花豆の会

花豆通信 第9号 2007年8月29日発行
 
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           目  次

□花豆ライブラリーH
  ◆単行本未収録作品「雪の中の青い炎」
 □第八回「花豆の会」報告
  ◆安房さんの世界を分かちあった時間  根岸 一博
 □その他
  ◆ 白樺のテーブルトーク「安房さんのひろがり」 佐々木 健太
  ◆いいメール
  ◆第一回  「まつりの晩はながいよ」 〜「だれも知らない時間」より  あまんきみこ
  ◆花豆の会の活動
  ◆花豆文庫
  ◆2006年度 会計報告
  ◆〜花豆・粒粒〜


 
絵 田中 槇子

 花豆ライブラリーH
 雪の中の青い炎 

安房 直子   .

「みんな、ようくあたたまるといいよ。ぼくにも妹がいてね、今、病気と、たたかっているんだ。早く行ってやらなきゃならないんだが、体がこごえそうだから、しばらくあたって、それから出発しようと思っているのさ。」
 子ぎつねたちは、そろりそろりと火のそばへ集まって来ました。それから、いくつもの小さい両手を、火にかざして、
「ぼくたちで、お祈りしてあげましょう。」
と言いました。母ぎつねも静かに言いました。
「私たちのお祈りは、きっときかれます。血をいただいたお礼に、妹さんのこと、いっしょうけんめい祈ってあげましょう。」
 藤野さんは、ふっと胸があつくなって、口の中で小さく、ありがとうと、言いました。

(本文より一部抜粋)

病気の妹のもとに、急いでかけつけようとする藤野さん。とちゅう、けがをした子ぎつねたちに、献血をする羽目に。妹を思う藤野さんの気持ちと、雪の中で出会ったきつねの親子、それぞれの心にともるあたたかな光が感じられる作品です。単行本未収録作品。
(「びわの実学校」81号(1977年) 掲載)


第8回「花豆の会の集い」 報告
安房さんの世界を分かちあった時間  
根岸 一博

五月晴れで、少々蒸し暑く感じた五月二十七日(日)、「第8回花豆の会の集い」が日本女子大学桜楓2号館の3階で開催されました。参加者は三十一名。
植松恵美子さんの司会のもと、はじめに運営スタッフの坂口正彦さんから、花豆の会のあらまし、そして、安房さんの作品の普及の面からも、一つの方向として朗読に力を入れていきたいと思いますとの挨拶があり、会は始まりました。
最初は、鈴木火夫さん演出による、安房作品「空にうかんだエレベーター」の、近江竹生さんによる朗読です。
近江さんは、物語の世界に合わせたかのように黒の帽子に黒のスーツ姿で登場。客席の照明が落とされ、スポットライトを浴びるなか、朗読は始まりました。TOMOFUMInさん作曲のオリジナルBGMを交え、作品に寄り添うかのような歌も披露されました。誰もが近江さんの声に耳を澄まし、「空にうかんだエレベーター」の世界を満喫しました。
この日はご欠席でしたが、画家・北見葉胡さんから、「ご参加の皆さんに差し上げてください」と、この物語の少女とウサギを乗せたエレベーターが、月夜の空に昇っていくシーンの絵ハガキを頂戴し、皆大喜びでした。
 休憩の後、椅子を円く並べかえ懇談となりました。各人が思い思いに自己紹介をし、安房さんへの思い、朗読の感想などを話され、たっぷりとっておいた時間も足りなくなったほどでした。
今年の最年少の参加者は、学校の年間自由研究で安房直子をテーマにしている中学2年生の方でした。
最後に、運営スタッフの佐々木健太さんが安房作品との出会いを語り、お集まりいただいた方々へ感謝を述べ、来年またお会いできることを願ってお開きとなりました。
 そのあと、歓談の輪があちこちにでき、一つひとつの輪が弾んでいるように見えました。余韻を楽しむように名残り惜しそうに、でも満足された表情で、皆さん会場をあとにされました。


 

白樺のテーブルトーク
安房さんのひろがり  佐々木 健太

  花豆の集いの参加者には、安房さんのお話の朗読をされている方がおおぜいおられました。全国では、朗読.語り.読み聞かせ、さらにはミュージカルにもとりあげられているようですし、ラジオでもよく読まれています。
 「きつねの窓」「鳥」など、えらばれているお話はたくさんありますが、安房さんのお話なら、ほとんどすべてが朗読にかなうように思います。
 安房さんは作品を書き上げると、かならず自分で声を出して読まれたといいます。
 安房さんの文章は、主述もはっきりして、正確でゆるぎない表現を選ばれています。
耳で聞いてあいまいなことばや、漠然としたふんいきで描いたりしません。読むと、場面が色や音や匂いまで、うかんでくるようです。
 だから、読み物として、絵本として、読み継がれていくのと同時に、耳をとおして多くの人に伝えられ、うつくしいイメージとして残されているのでしょう。
 亡くなられてから14年たちますのに、本の復刊や、絵本の新刊が相次ぎます。
 安房さんの本をたいせつに、宝物のようにして、出会いをよろこばれている方々の声には、くっきりと場面や色彩のイメージがのこっていて、再会をのぞんでいたという、つよい思いが述べられていました。
 こうしていろいろなかたちで、安房さんの世界が広がっているのを、嬉しく思います。

 
いい(e)メール

たくさんのお便りを有難うございました。嬉しく読ませて頂いています。お便りの中から一部をご紹介します。

●時々ふっと、木造の古いサークルの部屋に座っている直子さんを思い出します。
あれからもう長い月日がすぎてしまいました。(H.M.さん)

●年々若い人たちの参加が増え、安房さんも悦んでいることでしょう。より発展を期待しています。(K.M.さん)
●参加させて頂いたとき、大変強い、不思議な魂の響き合いの様な空気があることを感じました。また機会がありましたら出席させて下さい。(K.A.さん)

●昨年十一月と十二月、最寄りの小学校で『北風のわすれたハンカチ』を読みました。朝の読書時間は一〇分と短く、2回に分けての読み語りにしました。1年生が聞き手だったので、集中してくれるか不安でしたが、目をキラキラさせてお話の世界に入ってきてくれた子が多く、うれしかったです。出席は残念ながらできませんが、ご盛会をお祈りしています。(M.S.さん)

●「花豆の会の集い」のご案内ありがとうございます。7月末から何とか軽井沢の「ばん」をオープンしたいと思っております。(Y.M.さん)

●新版の「風と木の歌」から山室静先生の解説文がなくなってしまって、とても残念に感じています。
花豆ライブラリーでご紹介下さる物語、毎号とても大切なものをたった一度だけ味わう者のような心持ちで読んでいます。まだ知らない安房さんの作品に、こうして新たに出会えるというのは、何と嬉しいことでしょうか。このような喜びを分かち与えて下さった皆様に、心から感謝いたします。(C.N.さん)

●「花豆通信」8号は特に味戸さんのお話がとても心に響きました。お元気にしていらした頃の安房さんと直接お話できたこと、とてもうらやましいです。
味戸さんの文章もとてもよくて、又その時の会話も、とってもほほえましくて、安房さんのあたたかくて可愛らしいお人柄をしみじみと感じることができました。ありがとうございます。偕成社から又、続々と安房さんの絵本が出版されると伺い、安房さんの世界がどんどん新しい子ども達にも又受け継がれていくことを、ワクワクとする思いで楽しみにしています。(Y.K.さん)

●昨年末の産経新聞の、様々な指揮者の選ぶ「2006今年の3冊」の中で、演出家のわかぎゑふさんが「雪窓」をあげていらして、思わず嬉しくなりました。私は文庫でしか持っていないので、新版を買い求めようと思います。胸の奥がつんとするお話ですが、最後の救いがあって、本当に好きです。(T.H.さん)

●先日は花豆の会の集いに参加させていただきありがとうございました。私は安房さんの人と作品についてを、学校の自由研究のテーマにしています。みなさまからたくさんの貴重なお話を聞かせていただき、大変参考になりました。また、アンケートにご協力いただき本当にありがとうございました。私は今回の経験を通して、以前よりもっと安房さんのことが好きになりましたので、頑張って研究を進めたいと思います。(U.M.さん)

●5月の「花豆の会」に参加させて頂きました。参加された皆さんが、いかに安房直子さんの世界を愛し、大事にされているかがわかり、いい時間を過ごしました。「安房直子朗読館」の「空にうかんだエレベーター」は心が優しく、軽く、温かくなる朗読で、素敵でした!
8月4日に府中で「夢の果て」を 語り で上演します。(このEメールが届く頃には終っているのですが…)一面の青いアイリス畑、お客さまはどんな風に思い浮かべるのでしょう!
安房さんのお話には豊かな色彩、音、匂い、手触りがありますよね。それを想像して貰える様な語りをするのが、私の夢です!(A.M.さん)

●ある日曜日の朝テレビをつけると、あさのあつこさん、佐藤多佳子さん、森絵都さんの対談をやっており、三人の元気な声の合間に、それぞれの書斎が映し出されました。お洒落でカラフルで整った書斎。私はふと、安房さんの書いておられた食堂のテーブルを思い出し、時代の差を感じて、しばし感慨に耽りました。     
あの台所兼食堂の地味なテーブルで、私の一番好きな作品、<一種形而上学的ともいえる象徴性において、メルヘン童話の最上のものに近い>(実業之日本社『風と木の歌』山室静解説)といわれる、「鳥」を書かれたと思うと、懐かしさといとおしさで、心が騒ぎました。
「わくの話と中の話があるので、まとめるのが大変で、読者が混乱するのではないかと思った」と、かつて話しておられましたが、いつ読んでも、ミステリアスで切れ味がよく新鮮に感じられ、シュールな絵の中に、すっぽりと入り込んでしまったような気がするのです。何年たっても読み終わらないお話とは、こういうものなのでしょう。(A.I.さん)


 
安房作品と私 第一回
「まつりの晩はながいよ」 〜「だれも知らない時間」より    あまんきみこ

 今号より、「安房作品と私」の欄を設けました。第一回として、安房さんと温かい交流をもっていらした、あまんきみこさんが、新聞に書かれた (讀賣新聞二〇〇六年十一月二五日夕刊子ども新聞ライブラリー欄) エッセイの一部を紹介させて頂きます。

《「そんならいっそおれも、おまえの夢の中にいれておくれ。百年間でられなくてもかまわない。あの子といっしょに、海の底でくらすよ。」
これをきくと、カメは、はじめて、ぱっちりと目をあけたのです。そして、良太をまっすぐに見つめると、しっかりしたひくい声で、こういいました。
「それはいけないね。元気なわかいものが、そんなことしちゃいけないね。」
「それじゃ、どうすればいいのさ。」
「やっぱり・・・・・・わたしがなんとかしよう。」(中略)
 カメはうなずくと、ふとかなしそうな目をして、それから、ぽつりといいました。
「まつりの晩はながいよ。」
 それっきり、カメは首をひっこめて、良太がいくら呼んでも、石のようにうごきませんでした。》  
(偕成社文庫『童話集風と木の歌』より)

<このくだりは、老いたカメから毎晩一時間だけ時をゆずり受けた若者とそのカメの会話だ。だれも知らない不思議な時間に、太鼓のけいこを続けていた若者が、カメの夢に閉じこめられている少女を助けようとたのんでいる場面。「まつりの晩はながいよ」というカメの一言には深い意味がある。
 いよいよ浜辺の夜祭りがはじまり、若者のたたく太鼓に合わせて村人全員がだれも知らない時間にすっぽり入って踊り続ける光景は、迫力があってすばらしい。カメは自分の命の時間を村人に与え、使い果たすことで、おさげの少女を若者のもとに返す。作品末尾の「なにごともなく、村の朝がはじまりました」の静けさは、カメの死とともに胸にせまってくる>

「海賊」の同人であった私どもは、書き上がったばかりのこの作品を山室研究室で、安房さんに読んでもらった記憶があり、彼女の澄んだ声とともに、忘れられない作品として、胸深く残っております。      (生沢あゆむ)


 
安房さんの本が永久保存!

  @ 西東京市中央図書館 @

 前号でもご紹介しましたが、安房さんが生前、最後にお住まいだった西東京市(元・保谷市)の中央図書館では、同市出身の著名な作家の本が、「永久保存」扱いにされています。
司書の岩崎幸代様に伺ったところ、「地域行政資料室」に保存されおり、その他西東京市の各図書館に、貸出用の副本が適宜置かれているとのこと。西東京市の図書館全館あわせて、初期に発行されたものから最近のものまで、百二十冊以上あるようです。




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