| 第二回「花豆の会」ご報告 根岸一博 |
去る三月四日(上)、遊葉館で、第二回「花豆の会」が開催され、二十六名が参加しました。
はじめに、小西正保さんのごあいさつがありました。小西さんは、児童書の出版の現状は、非常に厳しいけれども、安房さんの作品の全集などが近い将来に出版されることを願っていること、また、戦後児童文掌のファンタジーの中では、佐藤さとると安房直子の両氏が傑出していると思う等、語されました。
つづいて、峰岸明さん〈安房さんの夫君)が、お礼のごあいさつをなさいました。
その後、安房さんの作品『天の鹿』の朗読がはじまりました。生沢あゆむさん、南史子さんのお二人が朗読し、井出聖子さんが横笛を演奏されました。みゆきの声がぷと安房さんの声のように感じられたりして、会場は安房さんの世界に包まれました。
期読が終わると小休止。安房さんのお好きだった紅茶とケーキが参加者全員に出されました。
次に『天の鹿』の画家であるスズキコージさんのお話に移りました。
話は、一気に二十五年前にさかのばり、『天の鹿』が書かれた時代にタイムスリップしたようでした。参加者との質疑応答も活発におこなわれ、和やかなひとときになりました。
語が一段落すると懇談に移りました。テーマは、「花豆の会」として、今後、会をどのようにしていきたいかについてお話しいただきました。読者の方々や、出版社の方々から熱心な希望や意見がのべられました。懇談の内容は、@安房さんの作品から受ける感動を分かちあったり、作者や登場人物の人となりについてなど、皆と語りあいたい、A『天の鹿』など版元で品切れになっている本を「花豆の会」が働きかけて出版されるようにできないか検討していこう、等というものでした。
最後に、井出さんの独奏で、「春のゆくへ − 安房直子さんを偲んで」が奏でられました。この場所に私たちといっしょにいる安房さんの魂が、笛の音とともに向こうの世界へ帰って行くかのように感じられました。お開きの前にスズキさんの絵の額入りカラーコピーが、お二人にブレゼントされることになり、全員のジャンケンにより会場は大いに盛り上がりました。
いつの間にか外は雨。参加者は心地よい余韻にひたりつつ、名残おしそうに家路へつかれました。 |
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『天の鹿』の画家
スズキコージさんのお話より |
ぽくが安房さんと初めてお会いしたのは二十五年ほど前のことになります。福音館の編集担当の石田さんという方とごいっしょで、たしか池袋のルノアールだったか、そんな名前の喫茶店で打ち合わせをしました。その時、安房さんは『夕鶴』の”つう”のような人だと思いましたね。
『天の鹿』の話は、安房さんが東北地方へ行かれた時に、マタギの人と知り合い、鹿や、熊撃ちの話を聞くことがあって、それをヒントにして書かれたということでした。
第一回目の原稿をいただいて読んだ時、なかなか面白いと思いました。ぼくの絵は、外人が描いた絵みたいだと、よくいわれるんですが、日本のファンタジーを描いたことはなかったんです。浦島の伝説もバリ島あたりかと思っていましたから。『天の鹿』の舞合ほ、東北かなと思いましたね。
『天の鹿』は、「母の友」という雑誌に十二回ほど連載という形で掲載されました。絵は、水彩で、黒と白の間の中間の色をとばして描いたもので、版画的な効果を出しています。
その後、筑摩書房から単行本として出す時に、カバーと表紙の絵を加えました。本が出来てから安房さんから葉書が届きまして、「わたしの出版した本の中で一番異色のものとなりました」と書いてありました。とても嬉しかったです。ぼくにとっては、こういう描きかたが、普通なんですけれども。
実は、ぼくは、今この本を持っていないのですが、久しぷりに見ると、自分の絵が、初々しく感じられますね。二十七歳ぐらいの時のものですから。こういう絵は、もう描けないですよ。とてもなつかしいです。
ぼくの絵の手法ですか?ばくは、浜松の高校を出て、赤坂の天ぷら屋で働いていた時に、堀内誠一氏にひろわれ、それ以来自分で開発した手法で描いています。作品を読んで、その世界が自分に乗り移って、目をつぷっていても浮かんでくるようになってから描きます。
(文貴 南史子)
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| 『天の鹿』を朗読して 生沢あゆむ |
闇夜の中をさ迷う牡鹿の魂、かつて牡鹿の肝を食べて命を救われ成長したみゆき。ぷたりは深い絆で結ばれ、やがて宙へ解き放たれて行きます。
井出聖子さんの横笛に出会ったとき、その清澄な音が宙に満ちるたび、私は『天の鹿』のことを思いました。これほどふさわしい響きはないでしょう。
首をかしげながら、ころころと愛らしく笑う、安房さんの声をおぼえていますか。私の中には、彼女の声が、いまもいきいきと広がっているのです。みゆきを彼女の声で、表現しようと試みました。敬愛する先輩の声を、表出しようなどとは、あまりにもだいそれた考えですが、「ちょっぼりだけならいいわよ」と、彼女は笑って許してくれるでしょう。
横笛の音にのって、みゆきの思いをたどるうちに、安房さんとともに創作のよろこびを味わい、あらたに書くことへの意欲が、湧き上がってきました。生と死の境めも、人問と鹿の違いもなく、すぺて繋がっているものと思わされるこの作品は、童話の純枠性をより深く、私に感じさせてくれます。安房さんありがとうございました。 |